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ヴィシュヌ教パーンチャラートラ派 [中世インド]

ヴィシュヌ教の中でタントラ色のある「パーンチャラートラ派」は、北インドで生まれ、南インドに伝播・普及しました。
この派の名前の意味は「五夜」であり、「五夜かけて行われる五の談義」などと解釈されています。
同じヴィシュヌ教の「パーガヴァタ派」との関係がはっきりしませんが、「パーガヴァタ派」の中でもタントラ的性質を持った一分派が「パーンチャラートラ派」のようです。
パーンチャラートラ派には、バラモン的要素とタントラ的要素があります。

基本的な聖典は、「パンチャラートラ・サンヒター」と総称されますが、その三宝とされるのは、6-7Cに書かれた「サートヴァタ・サンヒター」、「パウシュカラ・サンヒター」、「ジャヤーキヤ・サンヒター」です。

パーンチャラートラ派に限りませんが、ヒンドゥー系の聖典(アーガマ)には、「知識(ジュニャーナ)」、「瞑想(ヨガ)」、「勤行(チャリヤー)」、「儀式(クリヤー)」という4つのテーマがあります。


「知識」に属するものですが、パーンチャラートラ派には、次のような宇宙創造論があります。


・第一の創造

最初に、最高神「ヴァースデーヴァ(=静寂なブラフマン)が自身を目覚めさせて宇宙の展開が始まります。
活動エネルギーの「ラクシュミー(シャクティ)」が生まれ、質料因「ブーティ(ソーマ)」と手段因「クリヤー(アグニ)」に分かれ、さらに、6つの属性「全知・支配力・能力(シャクティ)・力・勇猛・威光」となります。

次に、これら属性の2つずつを持つ3つの顕現神である「ヴューハ神(サンカルシャナ、プラデュムナ、アニルッダ)」とその妃が生まれます。
これら3神は、クリシュナの長兄、息子、孫でもあります。
「ヴァースデーヴァ」と「ヴューハ神」の4神は、第四位・熟睡・夢睡眠・覚醒という四段階の意識状態を司ります。

「ブラフマン」から「アルニッダ」までは、宇宙軸の一本の光の束「ヴィシャーカユーパ」と呼ばれます。

さらに、12の副次的「ヴューハ神」と、12の「ヴィディヤー・イーシュヴァラ」神が生まれます。
さらに、39の顕示神(化身)が生まれます。

そして、ヴィシュヌの最高天ヴァクンタが生まれますが、これはヴィシュヌの3/4の顕現であり、残り1/4が俗なる世界となります。

・第二の創造

次に、「プラドゥユナム」が生まれます。
そこから、個我の集合体である「クータスタ・プルシャ」と原材料の「マーヤー・シャクティ」が生まれます。
らさに、万物の運動を制御する原理の「ニヤティ」と、3種の「グナ」が生まれます。

・第三第の創造

これ以降は、微細と粗大な物質的な宇宙の創造ですが、ほぼ、サーンキヤ哲学の25原理と同じです。
しかし、質料因としての「プラクリティ」に、時間の「カーラ」が付け加えられます。

・四の創造

粗大な五元素から、「宇宙卵」が生まれ、そこから「梵天」が生まれ、「世界」が作られます。

このように、宇宙創造論で、サーンキヤ哲学の25原理の上に、人格神と抽象原理を一体化した様々な存在を置くことは、パーンチャラートラ派に限らない、ヒンドゥー系のタントラの宇宙論の特徴です。
そのため、サーンキヤ哲学のプルシャ、プラクリティを、限定された存在として矮小化しています。

上記の宇宙創造論には、神格の位格(階層)があります。
パーンチャラートラ派では、身分によって、拝むべき神格が決められています。

1 八支ヨガに長けた者 :胸に蓮華の中のマントラとしての最高神ヴァースデーヴァ
2 バラモンの祭祀者  :形を備えた最高神ヴァースデーヴァ
3 儀礼をおこなう祭祀者:マントラを伴うヴューハ神
4 下位3カーストの者 :マントラを伴わないヴューハ神
5 知識はないがバクティを捧げる4カーストの者:39の顕示神


観想やプラーナの操作する「ヨガ」は、「内的崇拝」と呼ばれ、外的な儀礼と対応関係にあります。
例えば、儀式のおける「火」は、「ヨガ」における「クンダリニー」が対応します。
これは、パーンチャラートラ派に限らない、ヒンドゥー系のタントラの特徴です。


パーンチャラートラ派に限りませんが、タントラでは「三密」、特に、「マントラ」が重視されます。
マントラは長さから4分類されます。
・ヴィージャ(種子)  :一音節の母音のみもしくはプラス子音
・ピンダ(団塊)    :複数の母音、子音の結合したもの
・サンジュニャー(名称):神の名前
・パダ(句)      :神の属性を含む句

マントラの「オーム」は、最初に顕現したブラフマンと同一とされます。
また、字母である音素を配列した車輪の形をした「チャクラ」というものがあり、そこから一定の規則で各神のマントラが抽出されます。
ヴァースデーヴァの6つの属性は、神の6つの肢体と、6つの「肢体マントラ」に対応します。


宇宙論の階層
ヴァースデーヴァ(ブラフマン)
 ↓
ラクシュミー(シャクティ)
 ↓
質料因ブーティ、手段因クリヤー
 ↓
6の属性
 ↓
3人のヴューハ神
 ↓
12人の副次的ヴューハ神
12人のヴィディヤー・イーシュヴァラ神
 ↓
39の顕示神(化身)
プラドゥユナム
 ↓
クータスタ・プルシャマーヤー・シャクティ
 ↓
ニヤティ、3グナ
プラクリティ、カーラ
 ↓
ブッディ以下18原理
 ↓
粗大な5元素
 ↓
宇宙卵
 ↓
梵天
 ↓
世界


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ヴィシュヌ教、シヴァ教、シャクティ教 [中世インド]

一般に、「ヴァイシュナヴァ」、「シャイヴァ」、「シャークタ」に対して、ヒンドゥー教の「ヴィシュヌ派」、「シヴァ派」、「シャークタ派」という表現が使われます。
ですが、それぞれは主神が異なり、特に前2者はそれぞれを至高神とし、一元論的な思想も持つため、当サイトでは、「ヴィシュヌ教」、「シヴァ教」、「シャクティ教」と表現します。

一般に、後者ほど、中世において、タントラ、つまり、神秘主義的傾向が強くなります。


<ヴィシュヌ教>

ヴィシュヌ教(ヴァイシュナヴァ)は、様々な信仰の対象を、ヴィシュヌが「化身(アヴァターラ)」した存在であるとし、その信仰を取り入れつつ大きくなりました。
中心となるのは、クリシュナ信仰、ヴァースデーヴァ信仰、ラーナーヤナ信仰、ラーマ信仰です。
これらを除くと、純粋なヴィシュヌ信仰というのは、あまり内容のないものになります。

ヴィシュヌ神は、ヴェーダにおいては、雷神インドラに協力する神で、偏在する太陽光の神格化とされますが、あまり重要な神ではありませんでした。
最高神に上り詰めるのは、他の信仰を取り入れたプラーナ文献の時代です。

ヴィシュヌ教の源流は、西北インドの非アーリア系クシャトリアのヤーダヴァ族のクリシュナが始めた「バーガヴァタ教」です。
これは太陽神「バガヴァット(=ヴァースデーヴァ)」を信仰するもので、-8C頃に生まれました。
神格化された父の「ヴァースデーヴァ」、その兄「サンカルシャナ」、息子「プラドユナム」、孫「アニルッダ」は、元来は同族の実在人物だったようです。
この信仰では、神へのバクティ(親愛)を重視します。

一方、「ナーラーヤナ」は、「神々の休息所」とも言われ、「原初の水」と関係し、未顕現な存在であり、ブラフマーとも同一視される神です。
「マハーバーラタ」と諸「プラーナ」では、世界創造の最高神として、乳海の中で蛇のベッドの上で横たわる「ナーラーヤナ」の姿が描かれます。
この姿は、後に、ヴィシュヌやトリプラスンダリー信仰にも取り入れられます。
そして、「ナーラーヤナ」の4つの相の内の1つが「ヴァースデーヴァ」とされました。

また、叙事詩時代に、「ヴァースデーヴァ」が「ヴィシュヌ」と同一視されるようになりました。
必然的に、「ヴィシュヌ」は「ナーラーヤナ」とも同一視されます。

その後、クリシュナと、アービーラ族の牧童信仰が習合した「クリシュナ」信仰が広がり、「ヴァースデーヴァ」=「ヴィシュヌ」の化身とされるようになります。
さらに、「ラーマーヤナ」の主人公で理想の君主である「ラーマ」も「ヴィシュヌ」の化身と考えられるようになりました。

「バガヴァッド・ギーター」は、様々なバラモン哲学、ヨガの影響を受けた聖典ですが、その原型は、バ―ガヴァタ教(ヴィシュヌ教バーガヴァタ派)の文献です。
教えを説くクリシュナがヴィシュヌの化身ですので、ヴィシュヌ教の、その神学が体系化する以前の表現であるとも言えます。
そして、解脱を獲得するための方法として、「カルマ・ヨガ」、「バクティ・ヨガ」、「ジュニャーナ・ヨガ」が説かれます。
「カルマ・ヨガ」は、私欲を離れて結果を期待せずに仕事などの行為を行う道で、それによって、ダルマに一致し、カルマの影響を受けないとします。
「バクティ・ヨガ」は、最高神への「親愛」、「帰依」を行う道です。

*各ヨガについては姉妹サイトをご参照ください。
 カルマ・ヨガバクティ・ヨガジュニャーナ・ヨガ

ヴィシュヌ教では、どの派も「ヴァースデーヴァ」を最高神としますが、「ラーナーヤナ」、「クリシュナ」、「ラーマ」については、諸派によって重要度が異なります。
哲人でも、ラーマーヌジャは「ナーラーヤナ」、マドヴァは「ラーマ」、ヴァッラバは「クリシュナ」と、重視する信仰が異なります。

<シヴァ教>

シヴァ神は、インダス文明や狩猟文化にまで遡る神ですが、その後、「ヴェーダ」の非アーリア系の神である暴風雨神ルドラと習合して生まれた神です。

ヴィシュヌ教が「化身(アヴァターラ)」という論理で様々な信仰を統合しきましたが、シヴァ教は「相(ムールティ)」という論理で、様々な信仰を統合したという側面があります。
そのため、シヴァは、「マヘーシュヴァラ(大自在神)」、「ヴァイラヴァ(:シヴァの畏怖相)」、「マハーカーラ(大黒)」、「パシュパティ(獣主)」、「リンガ(:シヴァの男根相)」、「ナタ・ラージャ(舞踏王)」などなど、様々な名で呼ばれ、様々な相を見せます。

また、シヴァ教(シャイヴァ)はその妃を崇拝するシャクティ教と不可分であり、各地の女神信仰を、シヴァの妃であるシャクティとして取り込んで発展しました。
第一の妃は、パールヴァティですが、様々な女神がパールヴァティの生まれ変わりとされます。
また、シヴァの畏怖相の「ヴァイラヴァ」は、「七母神」や「八母神」と呼ばれる「母神(マートリ)」の夫となりました。

「ヴェーダ」では、恐ろしいルドラの温和な姿が「シヴァ」と呼ばれました。
ですが、ヒンドゥーでは、ヴィシュヌが温和、シヴァが恐ろしい姿を代表します。
ルドラは火葬場や森といった恐ろしい場所の神になり、それらの場所の人々の神になったためでしょう。

シヴァは、「アタルヴァ・ヴェーダ」ではすでに最高神になりました。
リンガという男根相は、地方土着のニシャーダ族の信仰が習合したものです。

シヴァには、遊行の苦行者、水の主、狩猟の神などの性質があります。
シヴァは、苦行者の巻き髪をし、天からのガンジスを頭で受け止める、虎の皮を腰に巻き、三日月の飾りをつけ、三叉戟とダルマ太鼓を持ち、牛を連れ、遺体の灰を体に塗って青白い肌の色をしています。

シヴァ教は、その遊行苦行者などの性質から、ヴィシュヌ教よりもタントラ的要素が大きく、また、第4カーストやアウトカーストの要素が強い宗教です。
一般に、シヴァ教には、「パーシュパタ派」、「聖典シヴァ派」、「カシミール・シヴァ派」、「ヴィーラ派」、「カーパーラ派」、「カーラームカ派」、「ナータ派」などがあります。

シヴァ教の古層をなすパーシュパタ派は、「パーシュパタ・スートラ」を著したラクリーシャを開祖的存在とし、2C頃に西北ンドで生まれ、後に、インド各地に広がりました。

パーシュパタ派には、次のような特徴があります。
苦の克服を重視する、日に三度の灰の沐浴を日課とする、高笑い・歌・踊り・牝牛の唸り声・礼拝・頌を唱えるという6種の奉納を勤めとする、市中で様々な奇行を行って非難に耐えることで業を浄化することを重視するなどです。

また、パーシュパタ派は、単なる苦の滅だけでなく、高次の心の能力を得ることも目的としています。
死期には火葬場に住んで、ルドラ=シヴァを観想し、死後に、シヴァと一体化する、もしくは、シヴァの御足に達することを目指します。

パーシュパタ派は、存在を3つに分けます。
「パティ(主)」である最高神のシヴァ、「パシュ(家畜)」である「個我」(本来はシヴァと一体)、そして、「パーシャ(縄)」である、「個我」をシヴァから離し制限する覆いです。

最後の「パーシャ」には、次の3つがあります。
「個我」の根源的な汚れ「マラ」、原物質・質料因の「マーヤー」、「カルマ(業)」です。
「カルマ」は、「個我」を世界に縛り付けるという悪業・悪行の意味だけでなく、「個我の汚れ」を落す善業・善行でもあります。

<シャクティ教>

シャクティ教(シャークタ)は、シヴァやその畏怖相のヴァイラヴァの妃を信仰するタントラの一派です。
ですから、シヴァ教と明確に区別することは困難です。
シャクティ教は、シヴァ教の中のタントラ的要素が強い派であるという側面もあります。

様々な各地の女神をシヴァの妃として、パールヴァティの生まれ変わりとして統合して大きな勢力となった点は、シヴァ教やヴィシュヌ教と似ています。

女神の本質はシヴァの「シャクティ」とされますが、これは、「力」、「威力」、「能力」、「エネルギー」、「精力」、「創造力」などを意味します。

シャクティ教の主神は、派によって異なりますが、「アーナンダヴァイラヴィー」、「マハーヴァイラヴィー」、「トリプラスンダリー」、「ラリター」などです。
「ヴァイラヴィー」は畏怖相を意味する名前で、「ラリター」は温和相の女神です。
「トリプラスンダリー」は、金と銀と鉄でできた阿修羅の住む3都市トリプラの女神で、ドゥルーガーの一つの姿とされます。

女神は、甘露の海の中にある宮殿で、シヴァを寝椅子にして横たわる姿として描かれることがあります。
これは、ナーラーヤナ、ヴィシュヌと同様の姿で、非顕現な宇宙の創造力を象徴します。

シャクティ派の聖典となる「デーヴィー・マーハートミャ(女神の偉大さ)」は、6C頃(5~8Cの諸説あり)北インドで成立しました。
この聖典は、様々な神々の体から生まれるエネルギー「シャクティ」としての女神・女性原理が悪神を倒す物語が語られます。
この女神は、「デーヴィー」、「ドゥルーガー」、「カーリー」、「サプタ・マートリカー(七母神)」などの姿になり、「チャンディカー」=「激しく怒る者」など様々な呼び名で呼ばれます。
女神には、温和な相、官能的な相(シャクティ)、恐ろしい相(ヴァイラヴィー)、少女相(クマ-リー)などがありますが、「デーヴィー・マーハートミャ」やシャクティ教では、その忿怒、調伏の性格が強調されています。
これらの女神は、死と創造が一体の、エネルギーで、農耕文化の地母神の性質を受け継いでいるようです。

「デーヴィー・マーハートミャ」は、3話からなりますが、いずれもアスラを倒す物語が中心です。

第一話の主人公は「デーヴィー」で、宇宙創造時の秩序回復者とされ、「闇の女神」、「シャクティ」、「プラクリティ」、「世界を創造し、守護し、食べる者」などと呼ばれます。

第二話の主人公は「ドゥルーガー」で、神々の体から飛び出した熱光が集まり、光る女神になります。

第三話の主人公は「カーリー」で、パールヴァティの体から生まれ、「チャンディカー」、「アンビカー」、「チャームナンダー」などと呼ばれ、また、「サプタ・マートリカー(七母神)」も登場します。 



<3教の宇宙論>

各項目で紹介する各派の宇宙創造論の階層を先に、参考に掲載します。
サーンキヤ哲学の25原理の上に、有神論的な原理を置くという共通性があります。


ヴィシュヌ教
パンチャラートラ派
シヴァ教
カシミール派
シャクティ教
シュリー・クラ派
ヴァースデーヴァ/ラクシュミー 最高シヴァ/シャクティ シヴァ/シャクティ
ブーティ、クリヤー
 ↓
6の属性
 ↓
3人のヴューハ神
永遠のシヴァ
主宰神
清浄な知
永遠のシヴァ
限定されない能力
限定されない知
12人の副次的ヴューハ神
12人のヴィディヤー神
 ↓
39の顕示神
 ↓
プラドゥユナム
 ↓
プルシャ、マーヤー
 ↓
ニヤティ、3グナ
マーヤー
カラー
ヴィディヤー
ニヤティ
カーラ
カーマ
マーヤー
カラー
ヴィディヤー

ニヤティ
カーラ
ラーガ
サーンキヤ哲学25原理
(プルシャの代わりにカーラ入る)
サーンキヤ哲学25原理 サーンキヤ哲学25原理

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カーラチャクラ・タントラの二次第 [中世インド]

「カーラチャクラ・タントラ」で「別のカーラチャクラ」に対応するのが、灌頂と行法である二次第です。

「カーラチャクラ・タントラ」の灌頂体系は、「無上ヨガ・タントラ」以前の灌頂と「無上ヨガ・タントラ」の四灌頂を統合して、下記のように11段階で行なわれます。
このような構成は、「ヴァジュラパンジャラ・タントラ」を継承したものです。

・世間の灌頂:「生起次第」を許す、従来の灌頂を7段階化

1 水
2 宝冠
3 絹リボン
4 金剛杵と金剛鈴
5 行動
6 名前
7 許可

・出世間の灌頂:「究竟次第」を許す、「無上ヨガ・タントラ」の4灌頂

1 瓶
2 秘密
3 般若智
4 第四

従来の瓶から水をかける灌頂は、「世間の灌頂」の1「水灌頂」で済んでいるため、「出世間の灌頂」の1「瓶灌頂」は、ヨーギニー(明妃)の乳に触れることとしています。

「カーラチャクラ・タントラ」の灌頂は、ダライ・ラマもパンチェン・ラマも、ヤシャス王の例にならって、一般信徒に公開された形で「大灌頂」として行います。
これは、「世間の灌頂」の部分で、「結縁灌頂」に当たり、「前灌頂」とも呼ばれます。
各段階では、師がそれぞれに対応する小物で弟子の体に触れて加持を行うなどします。

これに対して、「出世間の灌頂」は「伝法灌頂」に当たり、「後灌頂」とも呼ばれます。
ですが、阿闍梨になる時に、再度、「出世間の灌頂」が行われ、これは「後後灌頂」と呼ばれます。
「第四灌頂」では、「後灌頂」の際には「性ヨガ」の技法が伝えられ、「後後灌頂」の際に、言葉による真理の伝授が行われます。


「生起次第」は、次の4段階で行なわれますが、全体が、人間の受胎から成人までのプロセスと対応付けられています。

1 最高の勝利のマンダラ :本尊、マンダラ、諸尊の受胎の観想
2 最高の勝利の活動 :諸尊の再出生し、灌頂を受ける観想(誕生・成長に対応)
3 ビンドゥ・ヨガ :チャンダリーの火と菩提心の下降による四歓喜(成人に対応)
4 微細ヨガ  :微細ヨガ、身マンダラ、菩提心が頭頂へ上昇(成人に対応)

本尊の観想には、従来の「五現等覚」とは異なり、生理学を元にした形になっています。
つまり、父からの「白い心滴」と、母からの「赤い心滴」と、意識(阿頼耶識)、意識を運ぶ微細なプラーナの4者が母胎で一体になり、「不滅の心滴」が生まれて受胎することを、下記のように象徴を使って観想します。

・白い心滴 :母音の鬘が乗った白い月輪
・赤い心滴 :子音の鬘が乗った赤い日輪
・意識   :白いフーム字or青い羅喉星
・プラーナ :黒いヒ字
・不滅の心滴:ハム字

1の観想においては、諸尊は、「カーラチャクラ」である行者の男根を通って、明妃「ヴィシュヴァマーター」の胎内に留まって、マンダラに移動します。
これは、人間が受胎して胎内で成長するプロセスに対応します。

2では、4人の女尊が勧請して、諸尊を忿怒の明妃「ヴィシュヴァマーター 」の胎内に生み出します。
「カーラチャクラ」の忿怒形である「ヴァジュラヴェーガ」が、「カーラチャクラ」を捕まえ両手を縛って瞑想者の前に引き連れ、心臓に溶け込ませます。
そして、4つの灌頂で、身語心と智に対応する4仏が現れ、4つの心滴を浄化します。
また、7種の灌頂で、マンダラの諸尊を1と同様にして生み出し、身体に布置します。

その時の象徴的対応づけは、すでに記した以外では次の通りです。

・身 :阿弥陀 :蓮華 :眉間 :目覚め :静寂
・語 :宝生  :宝 :喉 :眠り :歓喜
・心 :不空成就:剣 :心臓 :熟睡 :忿怒
・大楽 :大日  :法輪 :ヘソ :三昧 :恍惚

・水      :5仏母         :五大
・宝冠     :5仏          :五蘊
・絹リボン   :10女神         :10プラーナ
・金剛杵と金剛鈴:カーラチャクラ、ヴィシュヴァマーター:左右管
・行動     :6菩薩、6金剛女     :六根(感覚器官)・六境(感覚対象)
・名前     :12忿怒尊        :6行動器官・6行動
・許可     :金剛薩埵、般若波羅蜜仏母:純粋意識

3、4は、性ヨガによる4歓喜の観想で、人間が成人するプロセスに対応します。


「究竟次第」は、「六支ヨガ」と呼ばれ、次の6段階で行なわれます。

1 抑制:気を収束させて10のヴィジョンを得る
2 禅定:中央管の上部に父母仏を観想して浄化
3 止息:瓶ヨガによってプラーナを中央管に流入
4 總持:中央管にプラーナを保持
5 憶念:上からと下からの四歓喜を得る
6 三昧:菩提心を蓄積して四身を得る

1の「抑制」は、父タントラ系の「死のヨガ」つまり、「風のヨガ」、「聚執」です。
プラーナを中央管から胸のチャクラにある心滴に流入させることでし、臨死の10のヴィジョンを体験します。
10のヴィジョンは、「秘密集会タントラ」の五相と四空を再解釈したもので、4つの「夜のヨガ」と6つの「昼のヨガ」に分けられます。
また、10のヴィジョンは10種のプラーナと女尊に対応しているとされます。

・夜のヨガ(四相:四大の解体)
1 煙
2 陽炎
3 蛍光
4 灯明

・昼のヨガ
1 火焔
2 月
3 太陽
4 羅喉星
5 閃光 :プラーナ:金剛界自在母:本当の光明
6 青い滴:アパーナ:ヴィシュヴァマーター

「夜のヨガ」は暗闇で修行するもので、1の「煙」と2の「陽炎」が「秘密集会タントラ」の「四相」と順序が変わっています。

「昼のヨガ」の6つのヴィジョンは、「秘密集会タントラ」の「四空」をより細かく分けたものですが、「ナーマサンギーティ」を継承しています。
最後の「青い滴」(マハービンドゥ)では、宇宙の森羅万象が現れるとされます。

2の「禅定」以降は、母タントラ系の「性のヨガ」です。
このように、「カーラチャクラ・タントラ」の「究竟次第」は、「死のヨガ」を先に行い、その後に「性のヨガ」を行うので、母タントラが優位と言えます。
ちなみに、「秘密集会タントラ」とは違い、「カーラチャクラ・タントラ」は、「性ヨガ」の時に、生身の女性でなく、観想でも悟れるとします。

5の「憶念」は、「チャンダリーの火」、「ビンドゥ・ヨガ」です。
自分自身を「カーラチャクラ」であると観想し、5仏母、10女尊と交わると観想し、ヘソのチャクラの「チャンダリーの火」を点火します。

これによって、頭頂の「白い菩提心」を下降させ、チャクラの場所で4つの歓喜を体験し、性器の先端に留めます。
これを「上から降りる四歓喜」と呼びます。 
最後の歓喜は「不変の楽」とも呼ばれ、この時の無分別の状態に「空」の認識を加えます。

また、ヘソの「赤い菩提心」を上昇させ、4つの歓喜を体験し、頭頂のチャクラに留めます。
これを「下から堅固になる四歓喜」と呼びます。

4つの「心滴」を設定することは、「秘密集会タントラ」のジュニャーナパーダ流を継承しています。

6の「三昧」では、5の「憶念」を続けることで、「赤白の菩提心」21,600滴を中央管に蓄積して満杯にすると、4つの「心滴」が仏の四身に変化します。
これを「菩提心の積聚」と呼びます。

より具体的には、まず、性器の先端に1800の「白い菩提心」を積み上げ、次に1800の「赤い菩提心」を頭頂に上げます。これを12回繰り返すことで両者が密着した状態になります。

・頭頂:「身の心滴」:対象の現れを生み出す →変化身
・心臓:「心の心滴」:無概念の意識を生み出す→法身
・喉 :「語の心滴」:音の現れを生み出す  →報身
・ヘソ:「智の心滴」:快楽を生み出す    →倶生身

「倶生身」というのは、「自性清浄身」、「理法身」とも呼ばれ、無始の真理そのものです。
一方、「法身」は「智法身」とも呼ばれ、真理を認識してそれと一体化した智です。

21,600というのは、一日の呼吸数に当たり、同時に動くプラーナの数です。
密教ではプラーナも含めてすべては業によって生まれるもので、21,600の心滴によって、すべての業が浄化されると考えるのです。

また、四身を合わせた仏身を「空色身(空の影像、トンスク)」と呼ぶようです。
これは「秘密集会タントラ」の「幻身」と同じ、プラーナと意識を伴う浄化された魂の体です。

また、この時に体験する最高に高められた歓喜を「不変の大楽(アクシャラスカ)」と呼びます。

「空色身(倶生身)」と「不変の大楽」の両方の獲得を「双運」と呼び、最高の段階とします。
また、「カーラチャクラ」を「空色身」、妃の「ヴィシュヴァマーター」を「不変の大楽」の象徴とし、その父母仏を「双運」の象徴とします。

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